- ゆっきー監督
ゆっきー監督のサブカルチャー談義17
最終更新: 2020年5月23日
今回のサブカル談義は音楽です。
ダニーハサウェイの「LIVE」
ソウルミュージック界において伝説の名盤です。ちなみに張り付けた動画は「LIVE」にも収録されている「the Ghetto」です。
アルバムバージョンとはだいぶアレンジが違いますが、鬼の演奏です。この時代のミュージシャンの情熱がほとばしっています。
ほんとYouTubeってすごいですね。どこからこんなレア映像が掘り出されるんでしょうか?笑。
1945年アメリカで生まれたダニーハサウェイは1979年、満33才という若さで亡くなっています。
この時代の天才アーティストは若くして亡くなるという悲しい伝説を体現している1人です。
時は60年代半ば。
アメリカではビートルズを筆頭としてイギリスのロックンロールが全米を巻き込み社会現象を起こします。
と、一言で表すと端的すぎるのですが、もちろんアメリカのミュージシャンもそのムーブメントを指をくわえて眺めていたわけではありません。
アメリカでは白人と黒人の衝突が絶えず、疎外され続けた黒人たちはその魂を音楽に宿し続けていました。
言わずと知れたブルーズです。
イギリスのマッシュルーム坊や達がアメリカに訪れるはるか前から、黒人たちは魂の叫びを続けていました。
でも、時代はまだまだ白人至上。迫害され路地裏で叫ぶ歴史が長々と続いていました。
細かい説明は端折りますが(このコラム10回分ほどになってしまうので)ごく個人的だった音楽「ブルーズ」は50年代頃、アメリカ各地で大衆音楽へ派生することになります。(当時主流だった演奏ジャズの影響ももちろん含んでます)
ブルーズとゴスペル&ジャズの融合とでも言いましょうか。
これがソウルミュージックです。
ソウルと言っても、その形は地域によって全く色が違います。デトロイト、メンフィス、フィラデルフィア、シカゴなど、同じソウルでも全て似て非なる物です。
ゴスペルの融合も、ゴスペルのハードな部分だったり、ソフトな部分だったり、その融合の結果も全く違います。ジャズにもビバップやスウィングがあるように。
世界一ファンキーな男「ジェームスブラウン」は、顕著にゴスペルのハードな部分を押し出していますし、根底にゴスペルがあると言っても表現スタイルが違います。
とはいえ今現在でもブルーズやジャズからの派生音楽「ソウル」「R&B」「ファンク」などのカテゴライズは困難で人によって変わります。
個人的に大きく分ければ
歌寄り=ソウル
演奏寄り=ファンク
その中間=R&B
と便宜上分けることにしていますが、この線引きはとても曖昧です。ジェームスブラウンも素晴らしい歌を歌いますし、メンフィスソウル、つまりスタックスは演奏に特化、デトロイトのモータウンは歌も演奏も素晴らしい
など、結局は便宜上、しかたなくカテゴライズしているわけで、今となっては形骸化している言葉でもあります。
話は戻り、怒涛の60年代前半シカゴの大学にてクラシックを学んでいたダニーハサウェイは、師匠のカーティスメイフィールドの後押しもあり、1969年にデビュー。
シカゴソウルの代名詞的ミュージシャンとして活発に活動します。
シカゴソウルは、ゴスペルのソフトな部分を受け継ぎ、ブルーズ特有のシャウトなどの泥臭さが控えめになっているのが特徴です。
そしてこの作品「LIVE」を1972年に発表。このアルバムはブラックミュージックの名盤として、今も世界中から愛されています。
ごく個人的な感想ですが、歌、演奏、楽曲(名曲カバーあり)も含め、ダニーハサウェイの「LIVE」は「音楽」として完成形の1つだと僕は思っています。
日本人の残念なところは黒人音楽に対してあまりアンテナがたたないことです。なぜかこの国にはブルーズが浸透しませんでした。
もちろん黒人の叫びを僕も全て理解できるわけではありませんが、音楽形態として学ぶべき部分がたくさんあるのは事実です。
エルビスやビートルズは日本で売れても、チャックベリーやマディウォーターズはあまり知られていない、という結果が物語っています。
どうにもコアな人達だけが聴くという印象があるブラックミュージック(ロックンロールも含む)ですが、素晴らしい音楽に触れないのは本当にもったいないことです。
ダニーハサウェイ「LIVE」には音楽の全てが込められていると僕は感じています。この気持ちは今も昔も変わりません。
いつ聴いても音楽の素晴らしさを感じることができます。
歌唱力や演奏力といった技術的な問題(ダニーハサウェイだけではなくギター、ベース、ドラムも含めて)
クオリティの高い楽曲
聴いているだけで震える心
そしてプロフェッショナルとしてのセールス
音楽に必要なこれら全ての要素を全て兼ね備えています。
これを聴いて「すげえな!」と思わない人はこの世にいない
と断言できるほどです。個人的な好き嫌いは別として、その価値は直観的に理解できるでしょう。
驚くべきはこの作品はデビューしてたった3年後(1971年時の演奏の寄せ集め)ということです。ダニーハサウェイはまだ27才です。
27才でこの歌に演奏…天才ってほんとにいるんだと初めて聴いた時思ったのをよく覚えています。
このアルバムで面白いことの1つに、ジョンレノンの「ジェラスガイ」が収録されていることが挙げられます。
さっきも書きましたが、ビートルズが全米でブームになった頃、ダニーハサウェイはまだデビューしていません。彼がデビューした1969年は、もはやビートルズは空中分解の状態です。
笑顔で全米を巻き込んでいたマッシュルーム坊や達をどのような目で眺めていたのか分かりませんが、ビートルズが解散し、ジョンレノンはアメリカに移住し本格的にソロ活動を開始。
1971年に「ジェラスガイ」を発表し、その直後にダニーハサウェイはこのアルバムの演奏を行っています。
ちなみにダニーハサウェイはビートルズの「イエスタデイ」もカバーしています。
白人やイギリス人などを越えて、リスペクトしていたということなのでしょう。
これも個人的な感想ですがジョンレノン、ポールマッカートニー大好きな僕が聴いても、ダニー版のジェラスガイ、イエスタデイは本家を越えるレベルでカバーしています。
良い意味で世界中のアーティストがしのぎを削っていた時代が60年代という時代なのです。
本当に何万回聴いても色褪せない名盤です。
エンディングの「Voices Inside (Everything Is Everything)」のベースソロは歴史上屈指の演奏で、僕もただひたすらにコピーを反復練習したものです。
華々しい才能を持ちながらも残念ながらダニーハサウェイの天才性は長くは続きませんでした。
メンタル的にダメージを受け続けたダニーハサウェイは病気を患い、その活動を縮小していきます。
そして1979年、謎の転落死という悲劇(事故とも自殺とも言われています)でその人生を閉じてしまいます。
満33才。
33才ですよ?
あまりに早すぎる死です。著名なミュージシャンが早死するという逸話にはダニーハサウェイももちろん含まれています。
なのでダニーハサウェイの活動期間は決して長くありません。表舞台に出ていたのは、せいぜい5年ほど。
たった5年で、ほとばしるような伝説を残してくれたダニーハサウェイなのです。
今ではもう「アルバム」という概念もない時代です。
曲単位でダウンロードするのが主流で、じっくりとそのアルバムを聴くということはコアな音楽ファンのみなのかもしれません。
もはやLPやCDは、時代錯誤の娯楽なのでしょう。
別に僕は回顧主義で、今のダウンロード文化をけなすわけではありません。現代の流行音楽を否定するつもりもありません。
時代の流れは確実にあります。その時代に生きている我々はどうしたってそこから逃げることはできません。
それでも良いものは良いと言いたい。
耳に馴染みやすい現代音楽もいいですが、こうした心が震える音楽にたまにはじっくりと触れてみるのはいかがでしょうか?
歴史的背景を知りながら聴くと、さらに格別な味わいがあることでしょう。
ダニーハサウェイ「LIVE」
騙されたと思って聴いてみて下さい。絶対に損はありません。
最後にダニーハサウェイ版「イエスタデイ」をどうぞ。
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